雨音がきこえる #8




外ではまだ雨が降り続いている。

マンションの花壇に咲いている紫陽花が街灯に照らされ暗闇に美しく映える。

花弁にいくつも雨の雫が落ち、重なり、茎へ葉へと伝っていく。

止むことなく溢れるようにその雫を落とす。



瞳を閉じて降り止まない雨音を背中で聞いていた。

「…景、吾」

耳元で響く低音。

オレの背中にまわった手に力が込められる。



「…ぁ…っ……」

ただ抱きしめられただけなのに、その熱さに堪えきれず声があがった。

忍足の体温が身体に浸透する。

自分の熱と混ざりあって目眩をおこしそうだ…。

「何や景ちゃん…、もうイキそうな顔になってんで…?」

「…ゆ、…し」

オレの上擦った声に口の端を上げて微笑った。

首筋に唇を押し付けられ、肩が大きく跳ねる。

いつ見てもイケすかないこの男の背中にしがみつく。

「これっぽっちでそないなっとったらこの先もたへんで」

満足げな笑みを浮かべ、鎖骨から顎まで忍足の舌が舐めあげた。

その濡れた感覚に悲鳴にも似た短い息を漏らす。

もがくように指先に力が入り、自分同様に無駄な肉のない背中は掴む所がなく、
そのままオレはギリ、と爪を立てた。

目の前が霞む。

「身体熱っついなぁ…」

「熱…がっ、あんだからよ… んっ…」

耳朶を優しく噛まれて舌でなぞられ、堪えきれない吐息が雨音にすぐ消された。