雨音がきこえる #3


今日は明け方から雨が上がっていた。

久しぶりの晴天になりそうだ。

すっかりコートの水も掃けていて、数日振りにラケットが握れそうだ。

「んーっ。久々の晴れ〜!気持ちE〜」

大きくジローは伸びをした。

「あれーっ。アトベはぁ?」

「すぐ出て行った。めちゃ早ぇ」

6限目が終わり、足早に部室へと向かう。


選ばれた者だけが足を踏み入れる事のできる、正レギュラーだけの聖域。

7人分の限られたロッカーとノートパソコンの為の机。

そして特注で用意させた質の良いソファが無造作に置かれている。

ドアに手を掛けると、そこはまだ鍵が掛かっていた。

念のために と、部長として預かっている部室の合い鍵を取り出した。

「誰も来てねぇのか」

大人が5人腰を掛けても余裕のある、そのソファに身体を預けて天井を仰いだ。

ここから見るこの天井をオレは見慣れてしまっていた。


────何度ここでアイツに抱かれただろう…。


名前を優しく呼ばれて…耳もとで甘い言葉を囁いて…そして軽く耳朶を咬んで舐められる。

ぞくん、

と、それを覚えている身体が高揚する。

「・・・っ、ぁ…」

震える身体。

自らの肩を強く掴んで落ち着かせようとした。

「っ…、く…そっ…」

オレはそれを知ってしまったから。

アイツから与えられてしまった、この昂る身体。

前屈みに身を小さく折りたたんで必死に堪える。

こんな身体にしやがって。あの眼鏡…

それでも離す事はもうできないだろう、あの腕を。

「…ん…っ、は…」

身体がじんわりと熱くて、制服のネクタイ外した。

目を閉じてしまうと、あの感覚に飲み込まれそうだ…。


そこへコンクリートの床がコツコツと冷たい音を鳴らし近付いてきた。

鍵がカチャリ、とまわる。

「開いてんじゃん!」

助かった… 踞っていた体制を整え顔を上げた。

声の主は岳人だった。

「あ、跡部…」

だから開いてんだ

と、納得の表情で本来の部室の鍵を机の上に置いた。

「あれ?顔赤いじゃん」

まだ身体が少し震えたままだった。

「そういえばさー」

特別それ以上気に留める事なく言葉を繋げた。

「侑士から…連絡あんの?」

岳人と忍足は同じクラスで、日頃から一緒にいる事が多い。

岳人はきっと何も強がる理由もなく、事のいきさつを知っているのだろう。

「…連絡…」

そうだ。

アイツは連絡を寄越していないのだ。

毎日くだらないメールや、

『ちょっと声が聴きたかってん』

などと、時間や都合はお構いなしだったのに。

よほどの理由があるのか、それともあの時理由を聞かなかった事に怒ってしまったのか…。

いや、でもきっと前者だ…。

そう考えていた。

─しかし・・・


「侑士さぁ、向こうで元気だってさ」

岳人の口からそんな言葉が出た。

                           続く

☆ジロちゃんのセリフに自分が恥ずかしくなりました(笑)
 時代錯誤感が好きだけど。
 この話だれか読んで下さってるのかな〜なんて…。気になる
 今更だけど、跡部と宍戸とジロちゃんは同じクラス設定で!