雨音がきこえる #番外編4
───引き寄せた跡部の口唇はとても冷たくて。
なんかオレばっか熱くて。
腹が立つ…。
軽く触れただけのそれとは違い、オレの手は力いっぱい跡部の襟を掴んだままだった。
「なんで忍足なの?」
しゃべり出したら止まらなくなっていた。
ずっと言わないつもりで、自分の胸の中にしまっておくハズだった言葉。
「オレの方がずっとアトベを好きだった!」
ズルイズルイズルイ!
もうずっと見てたんだ。
なのに。
突然やってきてあっと言う間に跡部の心も…きっと…身体も…
掴んでいた襟を力なく離した。
「─景ちゃん、ってオレも呼びたい…」
こんなのマジ子どもみたいでカッコわりぃし…。
でも悔しくて。
跡部をこんなにしてしまう忍足に嫉妬して止まない。
その上、放ったらかしなんて信じらんない!
…ホントはこの状況に理由があるんだ、ってことは分かってる。忍足はいい加減なヤツじゃない。
どれだけ腹を立てても、悔しくても、忍足のことも亮ちゃんやガックン同様オレは大好きなんだ。
オレが足掻いたところで、どうしようもないんだ。
「ダメだ」
跡部は一度目を閉じた後、ゆっくりとその綺麗な碧い瞳を開いた。
「それは…ダメだ…」
誠実な跡部。
そんな口調は態度を人は"オレ様"だと言うけど、嘘がつけなくて相手への礼儀を考えるからこそ曖昧な態度は取らない。
よく分かってるよ。
でも今はそんな誠実さが痛い。
やっぱり言うんじゃなかった。
誰にも呼ばせないよね。
トクベツ ナ ダレカ ノ タメ。
保健室の2つあるベッドの使用されていない枕を思いっきり掴んで投げ付けた。
ボフッ、と力ない音が立ち跡部にあたって床に落ちる。
落ちた枕をたまらない気持ちで眺めたけど。
「もうっ。バカバカし〜っ! 忘れてっ!」
わざとらしい位深く大きなため息をついて顔を上げた。
「ちょっと…弱ってるアトベがぁ、すっげー…キレイだったから…気の迷い!!」
なんだか自分でも言ってる事と行動がおかしいのがわかってるだけに、バツが悪くて跡部に背を向けた。
「ジロー…」
背中越しに響く声。
あーぁ、切ないし。
背を向けたものの、すぐ向き直って跡部にくれぐれも、と注意をした。
「さっきみたいなカオ、他で見せちゃダメだから!分かった?」
驚いて、困ったようにはにかんだ顔で跡部が答えた。
「…オマエにそんなこと言われるとは思いもしなかった」
もうそれは確信犯かと思う位に犯罪的な笑顔で。
きっとオレは耳まで真っ赤になっているハズ。
全身の力が抜けた気分だ…。
「……忍足っていっつもこんな気分なの…」
毎日こんなんじゃオレもたないかも…とつき合ってる忍足にちょっと同情さえ感じておかしくなった。
携帯で迎えの車を呼んで、家まで「礼だ」と言われて送ってもらった。
車の後部座席で腕を組みシートに凭れた跡部はやっぱり疲れていて。
「ん…」
それでもオレはゆっくりと跡部の肩に寄り掛かって寝たフリをした。
跡部がオレの頭の位置を気遣ってシートに深く座りなおしてくれた。
これだけはオレの特権として…
優しい優しい跡部。
終わり
☆終わりです〜。
良かった!年内にラストで。
分り辛いところなど、多々あったと思いますがさらっと流してもらえたら助かります。
番外編を読んで下さって有難うございました♪