雨音がきこえる #番外編


跡部は昔からキレイだった。

整った顔立ちで静かに微笑むと、どんな高価なアンティーク人形を並べても足元にも及ばない。

跡部は普段からあんまし微笑わないけどオレに結構それは向けられていた。

その優越感といったら言葉では表せない。

オレは跡部の笑顔がとても好きだった。

ちょっと冷たい感じだけど、それがまたいいんだ。



でも、最近前にも増してとてもキレイに微笑う。

長い間つき合ってきた中でそんな顔は見たことがない。

───瞳を細めて優しい顔をする。

その先にはいつも・・・・・・忍足がいる。




あれは、梅雨に入ってしばらくした頃だった。

雨ばかりで基礎練の日が続いていて、オレはいつものように眠くて人気のない本館と別館の渡り廊下の陰で壁にもたれて昼寝をしていた。

静かで雨音も心地いい。

ふ…、と、聞き慣れた声がふたつ、オレの耳に入ってきた。


───忍足と跡部。


…跡部と樺地が一緒にいても、忍足は跡部を連れて行ってしまう。

眉間にシワを寄せながらも、跡部は忍足について行くんだ。

言い争いもしょっちゅうしてる。

仲悪そうなのに、なんであんな顔して微笑うんだろう…。

色々考えてたらさっきまでの眠気がちょっと飛んでしまった。

壁にもたれた姿勢を崩さずにぼんやりと2人を眺めていた。

少し奥まった校舎の陰。

「…あ…っ」

え。

そうなんだ。

2人は───。

最初はいつものように顔を近づける忍足に、怒りながら何か言っていた感じの跡部だった。

そのうち忍足の手が跡部の腰に回ってその相手を抱き寄せた。

少しだけ背の高い忍足に合わせるように跡部の顎の角度が変わる。


キス。


まるでドラマや映画を見てる気分で、その光景に見愡れてしまっていた。

心臓が、

今まで聞いたこともない程音を立てていた。



                           続く

☆忍跡で掲載していた「雨音がきこえる」のジロちゃん目線です。
 本編を怠っていてすみません!
 個人的にジロ跡好物です(汗)