コトノハ #4


今、一番会いたくなかった相手。

タイミングが悪すぎる…。

そんなオレの心境などお構いなしに近づいてきた。

つくづくコイツの存在に揺さぶられ、…思い知らされる。

「サボリなん? …なんや身体ダルいんかな?」

そっと額に手を当てられ、びくりと身体が震えたが、すぐそのひんやりとした手のひらに瞳を閉じた。

心とは裏腹に、身体は心地よさを感じている。

(近くにいる そう実感する…オレはこの手にとても安心している)

しかし、そのギャップを受け入れられなくなり忍足の手を払いのけた。

「…やめろ」

訝しげな表情を浮かべ、オレの顔を覗き込んできた。

「何や景ちゃんおかしない?」

心底心配している様子ではなく、どこかしら探りを入れるような視線とオレのそれがぶつかる。

まさに、『目の前』の距離にヤツの顔があった。

喉の奥が空気を飲み込み、くぐもった音が鳴る。

同時に頬が熱くなったのが分かった。

ヤバイ。

悟られたくない。

自分の中にこんな女々しい感情があることを。

「…うーん。やっぱ何か顔赤いし調子悪いんちゃうか。こないなとこで横になるより、ちゃんと保健室行った方がええよ。…ほら、立ち?」

腕を掴まれ、引っ張られる。

「構うな…って」

意外に真剣に心配されてるのかと思って、バツが悪くなった。

「早く離せ…」

「いけるか?」

「テメェは何でこんなとこいるんだよ。…オマエこそ、サボリ…って感じでもねぇし」

用事もなくこんなところに来るはずがない。

「ん?オレ…は…、景ちゃんセンサーが働いた、ってとこ♪」

ソファの背もたれに身体を起こすと、忍足が当たり前のように空いた片側に腰を下ろした。

肩が少し触れる。

暫く沈黙が続いたが、先に口を開いたのは忍足の方だった。

「なぁ 景ちゃん」

穏やかな低い声。

「何かオレに言いたいこととか…ある?」

いきなりの確信にオレは動揺を隠すのに必死だった。

「…ねぇよ、そんなもんは…」

言いたいこと。

言いたい…訳じゃない。

できれば消し去りたい気持ちなら、ある。

「そっか…」

と、口にしたが忍足はそのまま言葉を続けた。

「今日はもう誤魔化させへんよ」

身体の向きは変えず顔だけこちらに向けて眼鏡の奥の瞳はオレを捕らえる。

「─ホンマはここに来たんは、メールもろたからや」

アイツ。

余計なことを…。

「宍戸から、な」

あのヤロー何を考えてんだ。

「アイツのこと怒ったったらアカンで。景ちゃんはええ友達持ってんなぁ」

微笑む忍足に余裕を感じて無性に腹立たしい。

「だから、何だって言うつもりだ。テメェこそオレに何が言いたい?」

睨みつける。

「跡部」

静かに、上の名前で呼ばれる。

そうコイツが言うのは真剣に向き会いたいと思っている時だ。

誤魔化しは通用しない。

しかし、どう切り抜けようか…そればかりが頭の中を駆け巡る。

                           続く