コトノハ #3
「あーぁ。アトベ行っちゃった」
ふぅ…、と頬杖をつきジローはため息をつく。
テーブルを挟み、険しい顔をして宍戸が舌打ちをした。
「…て、ゆーか!これ!!」
「ん。亮ちゃんどしたの?」
「アんの跡部のヤローっ。…ランチのトレイ置いていきやがって!」
目の前にはトレイが3つ。
「なんでオレらが片付けんだ!?」
ブツブツと文句を言いながらも、ジローに聞こえるか聞こえないかの声でボソリと漏らす。
「…まぁ…全部食ってっし、もう倒れることはねぇな…」
そんな一言をジローが聞き逃すことはなく、
「なぁんだかんだ、亮ちゃんは優しいねー」
ニコニコとジローは宍戸を見ながら自分のトレイだけを持ち上げた。
もうひとつのトレイは宍戸が持つと分かっているから。
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テラスを後にしたオレは、クラブハウスへと向かった。
胸がざわついて落ち着かない。
5限目はこのままここで過ごそうか…。
別段授業を受けなくても困ることはない。
入るとすぐ、ソファに腰を下ろす。
オレは制服のポケットから携帯を取り出し、宍戸宛てにメールを打った。
『適当に言っとけ』
アイツが文句を言う顔が目に浮かび、薄く笑った。
機転などが利かないのも分かってるのに。
そうだ。
オレは宍戸を使って気を紛らわせている。
「……てめぇが…頼れってほざくからだぜ…」
目を閉じて言葉と一緒に深く息を吐き出した。
宍戸は扱いやすい。
ジローは寝てばかりだが意外と卒がねぇ。
鳳は宍戸の犬だ。
岳人はうるせぇしガキだ。
忍足は───。
─アイツは…正直苦手だ。
オレの"強さ"は忍足には通用しない…。
必要以上にオレの中に入ってくる。
独特な話術で近づいてきてオレを挑発し、そのうちその甘い声で支配した。
深く。
抜けられないほどに。
オレは…こんなにも……。
額に手の甲をかざし、ソファに身体を預け直した。
天井を仰ぐ。
どれだけこの四角い景色を眺めただろう。
もうあの苦しかった時とは状況は違うのに、また、押しつぶされそうな感情を持て余している。
「らしくねぇな」
忍足といると解らなくなる。
オレらしい、とはそもそも何なのか。
今までの自分が全てだと思って生きてきた。
なのに。
耳元でアイツの声を聴くたびに自分の世界が変わっていく。
その低音に引きずられ、流されてしまう。
『好き』と言う感情は思考を曇らせる。
今までに忍足に向かってそう伝えたことはない。
思いだけが胸に蓄積され、言葉にならずに消えてしまう。
口にすれば楽になるんだろうか。
この気持ちから解放されるんだろうか。
もうずっとこんなことばかり考えている。
同じことばかりが繰り返し繰り返し、頭の中を巡る。
「なんや…先客おったんかい」
カチャリ、とクラブハウスのドアが開く。
鍵を閉めてなかったことに今更後悔する。
一番会いたくない相手だ。
「忍足…」
続く
☆全然挿し絵も描けずです…
あってもなくても、あんま変わんないけど;