コトノハ #3
「変わったなぁオマエ」
数日が経ったカフェテラス。
一番風通りの良い場所を陣取り、本日のランチを囲みながら普段はあまり口を開かない宍戸が、しみじみとした口調でそう言った。
今日は忍足と岳人のいない昼食だった。
「でしょでしょ〜っ。アトベってば、最近ますます可愛くなったよねー!」
力説するジローを放置したまま、宍戸は言葉を続ける。
「オマエがこんなとこでメシ食ってる事に未だ慣れないんだけどよ」
「悪ィのかよ」
「……」
「亮ちゃ〜ん、…悪いの?」
くされ縁だと信じて疑う事のない宍戸とはお互いいつも口調がきつめだ。
これが2人のスタンスだとは解りながらも、ジャレるように宍戸の顔を覗き込み、ジローは口を挟んだ。
「悪ぃなんて言ってねぇだろっ、ただ変わった、て言ってるだけだろ!」
「うんうん、そうそう!可愛くなった!」
どこまでもマイペースなジローに「分かったから」と、宍戸はジローの口にブロッコリーを押し込んだ。
「カワイイってなぁ…コレがだろ?幼稚舎の頃ならまだしも」
チラリとオレの顔を確認してから、宍戸は呆れた顔をした。
その宍戸の態度に眉を寄せたが、オレも『可愛い』などと口にされるのは好ましくない。
「てめぇ…このオレ様に向かって"コレ"とは何だ、覚悟できてんだろうな? …ぁん?
宍戸の分際で生意気なこと言いやがって」
「…っ、はぁ!?オマエっ! …くそっ、マジでコイツのどこをどう見て『カワイイ』なんて口に出来んだよ!
むっ…昔は一番背ェ低くて泣き虫だったくせしやがってよ!あーあ、あの頃の跡部の姿はどこにもねぇなぁ」
無愛想な面に、皮肉たっぷりの科白が余計に腹立たしい。
「でもよ…泣くくせして絶対に助けを求めなかったよな。それは今と変わってねぇかもしれねぇな」
ふと今までと口調が和らぎ、宍戸は柔らかに話した。
「言葉にすると楽になることもあるぜ?抱え込んでも解決しないことも一言伝えれば状況だって変わるかもしんねぇ。いい方法がみつかるかもしれねぇんだぜ」
それはこの間のことを遠回しに言われているんだと気付いた。
一瞬視線がぶつかった。
ほんの数秒だけ合わさった瞳をオレの方が先に避けた。
そんな宍戸の言葉にジローは顔をパァッと輝かせ、
「かぁっこいぃC〜!!亮ちゃんっ、今のマジ痺れたぁっ」
「ば、ばかやろうっ。そんなんじゃねぇって!」
顔を赤くしながらも視線はオレを見ているのが分かる。
瞳を逸らしても、そこには無言で伝わる空気があった。
ジローはちょっとつまらなさそうに、
「…オレも幼馴染みなんだからねぇっ」
と、口を尖らせたが、すぐ満面の笑みで向き直った。
「ねぇアトベ。困った時はオレたちもいること忘れないでよ!」
大きく後ろに伸びをしてジローは空を仰いだ。
「風、きもちいいねぇ、亮ちゃん」
「…そう、だな」
そんな2人を見ながらオレは思っていた。
───解っている。
解っていたはずだった。
でもあの時は周りさえ見えなくなって、何もかもが色をなくしていた。
身体に染みついてしまったただ1人を求めていた…。
今だかつてない感情の渦に飲み込まれ、コントロールすることすらできない。
そんなモノが己に存在していたことに動揺を隠せなかった。
涙と引き換えに強さを手に入れ、冷静さを身につけてきた。
そう思っていた。
───自分も知らない自分?
背中がゾクッと震えた。
(…オレはどうなっていく…?)
黙り込んでしまったオレをジローが覗き込む。
「アトベ…?」
口の端だけで笑顔を作りジローの頭をポン、と優しく叩いた。
「どこ行くの?」
振り返ることもなく右手を上げてカフェテラスをオレは後にした。
嫌でも好きだと自覚させられる。
こんなに心を、頭を、身体を占拠する存在。
こわい。
オレの中の何かがそう叫んでいた。
続く
☆こっちも大変長い間放置状態で…。
久々に書くと、何がなんだか〜><
ちゃんと続いてるように感じてもらえるのか不安がありますが、続きますです〜。