コトノハ #2


「侑士ぃ、早くメシ食って購買部ついてきてくれよっ」

「ガックン…子どもちゃうんやからそんくらい1人でいけるやろ?」

早くここから抜け出そうと岳人が忍足のシャツの裾を引っ張る。

「なぁんだよ〜っ!オレを1ヵ月も放っておいたクセにメンタルケアしろよっ。相棒がいなくてどれだけオレが寂しかったのか分かってんのかよ〜!」

つい先日まで忍足が休学し、京都にある母方の実家へ急用で帰っていた。

その間連絡が一切取れなかった一件があった。

不覚なことにオレは体調を崩し散々な状態に陥ってしまった経緯がある。

あれからもう夏服の袖が風に揺れる季節に変わっていた。


陽射しを遮る屋外のテラスは気持ちのいい風が吹いている。

つい最近まで食堂での食事など口に入れたことがなかったが、皆で席を囲み同じものを食べる行為も良いのもだと思い始めている。

それもアイツのせいだ。

大体が、あの関西弁眼鏡はよく言ってお節介、言い方を変えると土足で人の中に上がり込んでくる。

見事にペースを崩されている。

「食った?食ったな!行くぜーっ、侑士ぃ」

食べ終わるまで忍足の顔を覗き込んで見張る岳人に居心地が悪くなり、仕方なくといった様子で食事を済ませトレイを片付けた。

「ガックンうるさいからもう行くわ」

「うるさいって言うなっ、バカ侑士っ。5限目移動だし急げよ!」

肩を竦めて呆れる忍足を岳人はずるずる引きずり出し2人はテラスを後にした。

向かいに座っているジローと目が合うと、にっこりと笑いかけてきた。

「2人になったし〜、…なんてね」

忍足にはジローとのこと…好きだと言われた話は言っていない。

もし話していたら、まずこんな状況を放っておく訳はなかった。

「…ジロー、皿の上にあるモンはちゃんと食え」

「ふぁーい」

頬杖を付き小言を聞き流すかの様な態度を取りながらも、ジローはご機嫌そのものだ。

「アトベ可愛くなったね」

突然の言葉にカシャンと金属音をさせ、手に持っていたフォークが白い皿の上で跳ねた。

そんなオレの状態に構うことなく落としたフォークを拾い、オレに差し出した。

「ホントだよ。今まではキレイだったけど、何かカワイイ」

固まったままのオレをやっぱり笑顔で見つめている。

やれやれ…と、掴みどころのないジローの話は相手にせず皿の上に残った食事に手をつけた。

「…置いてくぜ?」

食べ終わったトレイに手をかけると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「やっばいし〜!」

慌てて残りの野菜を頬張り、空になった食器を重ねたトレイに乗せ返却口へ片付ける。

「でも…、アトベが元気になって良かった」

「ぁん…?」

聞き取りにくくて問うように声をかけると、「何でもないし〜」と振り返り、

「亮ちゃんもう教室戻ったかな…?」

「さぁな」

短く返事をしてテラスから校舎へと続く渡り廊下を歩く。

少し遅れてジローが後を追う。

廊下を歩く2人の間を涼しい風が吹き抜けていった。





                           続く